第1部 環境の役割 第1章 諸半島ー山地、高原、平野
1 まず初めに山地
『地中海』(浜名優美訳 藤原書店)を読む
 遅まきながらフェルナン・ブローデルの「地中海」を読んでいます。私は大阪府の堺市・松原市・美原町を中心とした地域の遺跡を対象に1993年に「中世丹南における職能民の集落遺跡」という論文を発表しました。
 そこで採った研究法は、遺跡を個別にみるのではなく、広く地域全体を視野に入れ、その中でどうしてその場所にその村や町が存在しなければならなかったのかを考えることで、そのためにまずは地理的条件をみて、それから文献史的条件を検討し、最後にそれらの上に考古学的なデータを加え検討しました。
 その結果見えてきたのは、中世社会というものは、これまでどちらかといえば、農民と武士の関係だけで語られることが多かったのですが、遺跡をみれば、それだけではなく、商人や職人や宗教者や都市民など、実に雑多で多彩な価値観をもった人たちの存在があり、実は中世とは、そういった人たちが各々個性的に、重要な役割を果たしていた、躍動感あふれる時代だったということ、そして村や町の遺跡は、それを具体的に示しているのだということでした。(注)
 地域をマクロに見ることによって、遺跡はより多くの歴史を語りはじめるのです。不十分な点もたくさんありますが、この論文の執筆を通じて私は非常に多くのことを学ぶことができました。
 フェルナン・ブローデルの「地中海(原題は「フェリペ2世下の地中海と地中海世界」)」は、マクロの視点から地域を見た歴史書として、ほかにくらべるもののないスケールの巨大さと、豊かな叙述性であまりに著名な書ですが、私はこの書を通じて、あらためて歴史研究の重要性とその可能性について、多くを学び、先の論文で足りなかったところを補い、さらに現在のGISを軸とした研究を進展させていきたいと考えています。